「そろそろ家に送ってくれる?」
夜になると毎晩、そう言いだす母。母は“帰る家”を、今も30年前の実家だと思っている。
「事実を伝えること」が、かえって母を傷つけていた
認知症の母が「おばあちゃんの様子を見に行く」と言うたびに、
「おばあちゃんはもう亡くなったよ」と、つい“事実”を伝えてしまっていた。
でも、そのたびに母は不安そうな顔をする。
そして数分後、また同じ言葉を繰り返す。
私はどうしても、「現実を分かってほしい」という気持ちを手放せなかった。
“嘘じゃない言葉”──それは心を守るケアだった
ある日、ケアマネさんが言ってくれた。
「“事実と違う言葉”でも、それは嘘じゃないんですよ。」
認知症のケアでは、本人の“心の安心”を優先する関わりを大切にします。
医療や介護の世界では、「ユマニチュード(人間らしさのケア)」や
「セラピューティック・ライ(治療的な嘘)」と呼ばれています。
それは、“現実よりも安心を優先する”やさしい関わり方。
私はその考えに出会って、ようやく少し救われました。
夢の中の安心を壊さないように、現実よりも心を大切にする
もし、夢の中で大切な人と再会している誰かを、
「現実じゃないよ」と揺り起こすより、
少しの間、安心して笑っていてほしい。
それと同じように、
“現実よりも安心を優先する”関わり方が、
心を守るケアなんだと気づきました。
母の心を守る“やさしい言葉”を、今日も選んでいく
母に「おばあちゃん、元気かな」と言われたら、
今はこう答えるようにしています。
「うん、きっと元気だよ。明日会いに行こうね。」
それはもう“嘘”じゃなく、母の心に寄り添うための“やさしい言葉”です。
今日も、母の安心と笑顔を守るために。
私はまた、そっと言葉を選びます。


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